40代でアダルト紫帯で試合に出る理由

紫帯になってちょうど1年を迎えました。1年目の成績は、マスター7勝2敗、アダルト2勝3敗でした。

  • 11/3 DEVILOCK杯:優勝
  • 12/28 関東柔術選手権:2位
  • 3/28 関東柔術OP:優勝
  • 3/29 全日本OP:2回戦敗退
  • 5/2 全日本マスター:3位
  • 7/8 アジア選手権:2回戦敗退
  • 8/23 全日本選手権:1回戦敗退

青帯1,2年目の連敗を振り返ると、かなり順調です。青帯と大きく違うことは、アダルトカテゴリの出場が半数近くになっていることです。

これまで定点観測的に「柔術の試合に出る意義」をテーマにした記事を書いてきました。

  • 2023年8月「惨敗して気づく「なぜ試合に出るのか?」の明確な答え」
  • 2024年12月「青帯を買い直して、引きつづきアダルトでも戦う決意を新たにする」
  • 2025年5月「ダイエットに成功して次の目標を立てた時、僕は柔術家になった」

今回は、アダルトの試合に出る理由について書きます。

目次

【おすすめはしない】周りの人がアダルトに出はじめた

最近、僕の周りでアダルトカテゴリに出場するマスター世代が増えています。「延藤さんにならって、自分もアダルトで出てみます」と事前・事後で連絡をいただきます。

まだ優勝や表彰台に乗った方はいません。マスターでは常勝でもアダルトでは1勝するのも難しい。柔術はテクニックの要素が高いとはいえ、フィジカルやスピードで上回られると、勝つのは難しいのです。

先に断っておくと、僕はマスターがアダルトに出ることは正直おすすめはしません。特に白・青帯の方は。

というのも柔術の試合はトーナメント形式なので、勝てば何度も試合経験が詰め、負けるとその時点で終わりです。なので、自分の年齢カテゴリである程度勝てている、あるいは過去にたくさん試合をして経験を積んでいる人じゃないとアダルトに出るのはコスパが悪いです。

フィジカル、技術、経験すべてにおいてアダルトが上回ります。「年齢を克服したい」という程度のモチベーションだと出る意味はほとんどありません。それならトーナメントで経験を積みながら、勝率を保ち、上の帯を順当に目指すほうが見え方の面でも良いでしょう。

また、アダルトはタップが遅い傾向があり(音が鳴る程度ではタップしない)、隙を見たらためらわずガチ極めされることもあります。

紫帯アダルトになると、各ジムでインストラクターをしている選手も多くなります。仕事として柔術をやっている以上、生徒の目もあり、負けられないという気持ちはマスターよりも強いはずです。

折ってトラウマ、折られて重症・・・マスター戦よりもリスクが高いことに注意は必要です。

アダルトでは「本気の奴ら」「怪物たち」に出会える

最近よく「“マスターなのに”アダルトに”挑戦”してすごいね」と言われます。たしかに『挑戦』ではあるのですが、若い人には負けたくないとかそういう気持ちで出場していません。

アダルトはフィジカルよりも本気度が違う

以前、BJJ LABの僕の企画で「アダルトとマスターの違いとは?」をテーマにトーク回がありました。

竹浦さんから「フィジカルやテクニックよりも、試合にかける思いが全然違う」「そのマインドの差がまずは50%以上を占める」という話がありました。要するに本気度の違いです。

実際にアダルトで冠大会に出てくる選手は、勝利への執念、敗北への抵抗が強い。前述の通り、怪我への恐れも低い。

以下の二つはアダルトの試合です。

こんなに腕十字を耐えるマスターの試合を見たことがありますか?

僕も昨年の全日本ではフットロックで2回も足を伸ばしてバキバキ鳴ったのに相手はタップせずに別のサブミッションで極めるに至りました。

一方、マスターの試合では、お互いに知る顔同士で対戦することも多く、和気あいあいとしています。僕はそういう柔術の文化が好きなのですが、一方で怪我をするくらいヒリヒリした戦いをする若者への尊敬もあります。

僕が求めているのは「本気で柔術に取り組む人」「柔術の頂きを目指すんだという人」との対戦です。さらにその中にひそむ「怪物」たちと対戦して競技の奥深さに触れたい。怪物との遭遇率はアダルトの方が多いので、自然とアダルトに目がいくようになっています。

これは、僕がこれまでまじめに競技をやってきたことがないから、アダルトにいる選手への羨望があるのかもしれません。

限られた時間と加齢

「そんなお前は本気でやれているのか?」と訊かれると、正直答えに窮します。そこまで柔術に時間をかけて練習はできていません。週5回、1日の練習時間は1時間未満です。2部練をすることはなく、選手練には出たことがありません(厳密には呼ばれたことがない)。

今年、三人目の子供が生まれました。三人目をもうけることについては、僕から妻に提案しました。キャリア、柔術を優先するなら、そんなことは考えなかったでしょう。

大会で優勝したところで明日の生活が変わることはありません。勝ちから得られる”実利”は特にありません。家庭に支障が出るほどのめり込むことはやらないようにしています。

でもその限られた時間でも少しでも彼らに追いつける方法を探ろうという気持ちはあります。今回負け越したとはいえ、内容的にも僅差が多いので今の環境の中でできることを増やそうと考えています。

この星さん(BJJ LABの仲間)のコメントはまさに僕の今の状況を表しています。とはいえ、テクニック以外の補強も図るために3月から自宅で筋トレにも取り組んでいます。

今しか戦えない人たち

今年41歳になりました。昨年あたりから疲労が抜けにくい日が増えてきました。ふと「これが老化か?」と思ったりもします。あまり意識すると余計に老け込みそうなので、都合よく忘れたふりをしていますが、疲れている日が増えていることは事実です。

紫〜黒帯のマスターにも強い人がたくさんいますが、いずれみんな黒帯(帯の終着点)での戦いになります。それなら今しか戦えない人と対戦したい。そうなると、必然的に柔道・組競技の熟練者、キッズからバリバリ柔術をやっている人たちとの対戦を望むことになります。

強い人と戦いたい、怪物と遭遇したいという気持ちと同時に、「あと数年したらこんなことはできなくなる」という時限的な逼迫感も出てきています。

二人の怪物に会えました

怪物との遭遇をいつも願っている僕ですが、今年はアダルトのビッグトーナメントに出場したおかげで、すごい選手と対戦できました。

Kim Eunseungさん(Wire Jiu-Jitsu)

7月のIBJJFアジア選手権の2回戦で対戦しました。昨年、JBJJF全日本選手権(ジュブナイル青帯)で優勝し、今年はIBJJF Worldで3位を獲得する実力者でした。

本当に強かった。的確にWガードにしてアドバンを取り、瞬時に上からパスを狙う。フットロックも強烈でした。なんとかスイープして、2-0で6分30秒を迎え、このまま逃げ切れると思ったら、一瞬の隙をつかれて、レッグドラッグ→バックテイクで逆転されました。

城開晴さん(カルペディエム福岡)

一昨日、全日本選手権の1回戦で対戦しました。実績のあるキッズ出身の選手。昨年時点で全日本、アジアでも3位を獲っている強豪です。どちらも茶帯トップの大野智輝さんが競り勝って優勝を譲っていますが、キレのある動きは若手ならでは。バネというか、運動能力、反射神経の良さが輝いています。

僕との試合では、飛び膝蹴りのようなパスから始まり、スパイダーに対して容赦無くがんがん蹴って外されそうになりました。パワーもスピードも圧倒されました。

最近では一度スパイダーに入れたら同体格の黒帯でも簡単にパスられることはないのですが、まさかダイビングヘッドしてくるとは。スクランブルで勝てる自信があるからできる動きです。

試合直後は「こんな人には絶対勝てない」と思いました。でも落ち着いて動画を見返すと意外とちゃんとガードは作れていたり、2〜5回戦の観察する中で得意な場面とそうではない場面の差が大きいこともわかりました。もう一回戦ってみたいですが、今回の全日本選手権で準優勝(井田徠選手とアドバン差)になり、茶帯に上がるはずでリベンジマッチは実現はしなさそうです。

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↑城選手に極められたシーン。肋骨が圧迫されると、「ボキボキ」ではなく「ドゥルル」って音がするんですよ。ズキズキ痛みますが、試合翌日も今日も練習には行きました。肋骨は手足と違って何本もあるのでまあ大丈夫でしょう。怪我のリスクも織り込みつつ、アダルト戦線での出場を続けていきます。

成功した柔術家のロールモデルは少ない

僕が目指すモデルは、高橋謙人さん(カルペディエム久留米)です。アマ/プロマッチへの継続的な出場、指導者、教則動画の講師、セミナー・練習会の開催といった柔術への貢献度が高い。

さらに奥さん・子どもも柔術をやっています。地域に根づいた活動をしながらも、家族で遠征をする。「ライフ」「ワーク」を融合させているので、マスター柔術家の完成系ではないでしょうか?

これは柔術が強いかどうか、どれだけ柔術に長い時間を投じたかという1つの軸では達成できません。

僕の年齢じゃないと高橋さんの凄さはわからないかもしれませんが、今バリバリのアダルトでやっている若者も高橋さんの取り組みは見ておくことをお勧めします。

いくら柔術が好きでも、趣味の範囲を超えることは難しい。もし専業柔術家(指導者・ジム経営者)になったとしても「ライフの部分がどうなの?」は後から効いてきます。競技に熱中できる現役期間よりも、寿命のほうが圧倒的に長いのです。40,50代を迎えた時に周りの人たちから見て、目指したいと思える人物なのかは重要です。

「柔術の腕はすごい」「教えるのは上手い」。その程度の人物であれば、目指したいとはなりません。

誰かを腐していうわけではないのですが、柔術だけがんばって(=競技力を高める)、トップ選手になっただけでは幸せにはなれないことは知っておくべきでしょう。

成人して柔術を始めてもトップにはなれないし、強さで食えるわけではない

現在の柔術シーンにおいて、トップ選手はみんな幼少期からやっています。さらにいうと、幼少期から名門チームに入れるかが重要になっています。日本でもその傾向は強くなっています。

たとえば18歳からプロ野球選手を目指す人なんていません。小学生からバリバリやって、遅くとも中学生では地域で名を知られて、そのまま名門高校へ進み・・・それでもプロになれるかはわからないし、プロとして続けられるかもわかりません。

柔術も成熟しつつある

柔術のプロは観客ありきの活動ではないですが、それでも競技実績は問われるので、早くから始めるに越したことはありません。早く始められるかは、ほぼ運にかかっています。

  • 都市部に住んでいる
  • 地方だけどたまたまキッズ指導の手厚いジムが近所にある
  • 親が柔術を子どもに提案した

このあたりでしょう。

個人的に技術をいくら追求しても食えません。特に20代後半辺りから人生(ライフ)の舵取りを自分でやらないといけなくなるので、「それでも柔術に多くの時間を投じていいのか?」という疑問は柔術好きの若手がぶつかる壁でしょう。

柔術は「教えることでしか食えない」一方で、一般層(エンジョイ)はそれなりに厚く、技術や指導に対して対価を払うのが当たり前の文化(=市場として健全)ができています。これは他の競技にはない恵まれた環境(産業構造)です。

一定の指導力、店舗の運営能力があれば、食えるようにもなっています。なので先を読んで、早めに指導力を磨く方にシフトするのはありだと思います。

野球ではプロで活躍しようと現役時に生涯年収を稼ぎ切らない限り、その後は別の仕事をするしかない。キッズ野球の指導で食うのは難しいと言われています。柔道も同様です(文化的な側面が大きい)。普通のスポーツでは、現役後に他の仕事をするか、現役時代の知名度を利用するしかない。対照的に、柔術家は指導という稼ぎ口があり、それは60代くらいまでいけるし、ジム経営者という道も十分あり得る。

若者は自分の実力や実務能力を見て、どこにキャリアを決めていく必要があります。

キャリアを決める際には痛みが伴います。何かを諦めるということです。

そこが曖昧なまま上京したり、昼間に選手練がしたいだけで時間の融通がきく仕事を選んでも、結局中途半端になります。

「好きなことをしているんだからいいだろう?」「結婚するも子どもを持つも個人の自由」と言えるのは、それは日本がたまたまこれまで豊かだったからです。社会にリソースがあれば個人の自由は放任されていましたが、そんな社会はもう終わりに近づいています。

トップ選手になれる見込みもない、仕事も中途半端、恋愛もそっちのけで柔術に打ち込むのは正直リスクが高い。

経済の流れ(物価、社会保険料、医療、人口動態)を読んでいくと、もうそういう個人主義が放任される時代ではないなと。その時代における自分の立場をわきまえて生き方を決めていくことが今後もっと求められていきます。ようするに「お前は世の中にどう役立っているのか?」に対するアンサーを用意しておく必要があるということです。これは柔術に限らないのですが。

だいぶ話は逸れてしまいましたが、よくジムの経営者から
「柔術ばかりしていて、仕事はちゃんとやっているんだろうか」
「女っ気がなくて柔術ばかりやっている」
という心配の声を聞きます。

彼らは立場上、そんな話を大っぴらに言えない方も多いでしょうから(会員は顧客でもある)、敢えて書かせてもらいました。

「単なるマスター柔術家」では若者に支持されない

意図していなかったのですが、この春から二人の娘が柔術を始めました。(高橋さんに一歩近づく)。

女の子にはハードな競技なので、将来どこかのタイミングでやめるかもしれません。

全然それでもいいです。僕だってまだ4年ちょっとしかやってないので、誰かに強要できる立場にはありません。

それでもいま子供と一緒に柔術に取り組めることは幸せなことです。今年三人目(男)も生まれたので、いずれ息子も柔術を始めるかもしれません。なので、ライフワークバランス&柔術はすごく順調です。

とはいえ、若者にこんな話をしても伝わらないでしょう(笑)

僕が10,20代の頃は、40代以降の人生があるなんて想像もつきませんでした。「好きなことやって30代くらいで死んでも全然いい」という気持ちで生きていたので。

なので、「所帯じみたおじさん」「競争から降りた元若者」ではウケません。

いくらジムで一緒に練習しても、若者にとってエンジョイマスター勢は、あくまで「近くにいる遠い人」なのです。

若い人ほど飲み込みがよく成長曲線も淀みがない。試合にもよく出ます。僕も「成長を目指す仲間」と見てもらうためにも、技術の向上に取り組み、柔術競技者の中で一定の信頼を得たいと考えています。

まずは技術があり、日々上達している。その上で、仕事もできる、家庭もある、家族も柔術をやっている・・・となれば、若手の参考になるかもしれません。そういう意味では、ライフワークバランスを取りつつ、アダルトカテゴリで勝ち上がることはとても重要になってきます。

おっさんの過度な勝利パフォーマンスとか、武道とは?とか、ああいうニュースは僕も興味がないわけじゃないけど、みんなでネタとして擦る層にマスターが多いので、敢えてSNSでは乗っからないようにします。精神的な若造りと言いますか。興味はあるんですけど(笑

YouTubeを通して一定の支持を受けている実感はあるし、良くも悪くも見られているので、ここは戦略的にポジションニングを取ろうと思います。自分なりに書き切ったつもりですが、理解できない人もいるでしょう。

中長期に渡ってこのテーマは発信していこうと思います。

2028年、IBJJF Worldに出場します

ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございます。

最後に僕のアダルト出場の最終地点を書いておきます。

再来年、IBJJFワールドに出場します。World Masterではない方のWorld(ムンジアル)です。

過去の日本人出場者(紫帯)の国内での順位、大会での順位を見ると、あと2年後にはなんとか戦える(目安2回戦)レベルにはなれると思っています。

ブラジリアン柔術をやる一員として、世界最高峰の舞台を体験したい。最終日の黒帯の決勝まで見届けたい。そして当事者として関わりたい。

やはり当事者として関わるというのはすごく大事なんです。アジア選考会に参加して、改めて感じました。なので、単なる観光・見学ツアーに終わらせないように出場者としてしっかり備えておきます。

アダルトで勝ちたいがために紫帯で滞留するのもちょっと違うかなと思うので、Worldが終わったらマスター茶帯に進路を変更します。子どもも大きくなるので、自分のための練習以外の時間を増やしていきます。

「テクニックの成熟」「肉体的な限界」が一致しないのが本当に惜しいですね。テクニックはいくらでも伸びます。でも試合においては肉体的な限界があります。これはマスター世代はみんな感じていますよね?

限りある時間の中で、しっかりやり切りたいと思います。全てを終えたらしっかりブログにまとめようと思うので楽しみにしてください。

【補遺】今回あらためて記事を書こうと思ったきっかけ

萩野貴旺さん(トラフォース天満)

いつも柔術のやる気を高めてくれる萩野さんの記事にこんなことが書かれていました。萩野さんもいずれライフワーク×柔術の一モデルになる人物と読んでいます。

最近よく考えることがあります。
本気で真剣に努力して、結果を出せた。でも、本当のトップどころには、どうしても食い込めない。そういう経験を何度か重ねて、初めて人は「生まれ持った素質」というものの存在を、頭ではなく身体で受け入れることができる。
これは、実際に経験していないと分からないことです。
「才能」とか「素質」という言葉は、みんな知っているし、誰でも簡単にすぐ口にする。
でも、それを本当の意味で己の中で腹落ちさせるには、「本気でやってもなお届かなかった」という経験が必要になる。生半可な努力の中では、この感覚は絶対に見えてこない。頭で分かっていることと、身体で理解し、感じていていることの間には、想像以上に大きな乖離がある。

前田まさきさん(マスタージャパン東京)

マーケティングや商品・ビジネスモデルの情報発信をしています。最近は柔術についての取り組みも発信しています。

現在4連敗で、次戦に向けて準備中とのこと。負けから学ぶことは多いです。負けからの挽回、取り組みは貴重な体験になるし、ジムの仲間に伝えられることもたくさん出てくるはず。

「今のうちにログを残した方がいいですよ」なんて言ったしまったので、がんばって今回の記事を書くことにしました笑 ありがとうございます。

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